ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 スティーグ・ラーソン 

【あらすじ】
ヨーロッパで脅威の人気を誇る、あのミレニアムシリーズ(全3・著者の死によりシリーズは3でストップ)の始まりが描かれている作品。
月刊誌ミレニアムの発行責任者であり、共同運営者でもあるミカエルは、ある大物実業家の暴露記事を書き、名誉毀損で有罪となる。落ち込むミカエルに近づいてきたのが大グループの前社長ヘンリック・ヴァンゲル。ヘンリックの長年の憎悪と苦悩を解決するため、ミカエルにある依頼をする。それは、40年前に突如姿を消した孫娘の真相を探ることだった。聡明な孫娘ハリエットは、強欲なヴァンゲル家の誰かに殺害されたんだ、と主張するヘンリック。ヘンリックの異常ともいえる執拗さで大金をつぎ込んだ捜査をもってしても尚、遺体も何も見つからなかったこの事件に、ミカエルは、多額の報酬と有罪判決を受けるきっかけとなった大物実業家を蹴落とす情報、この2つのために調査を開始することになる。

一方ピアスをし、背中にはドラゴンのタトゥーを持つリスベットは、生来の他人を寄せ付けない性格と特異な風貌のため、解雇を言い渡される寸前だった。しかし社長室に呼び出され解雇を言い渡される直前、リスベットの有能さを感じた社長は、リスベットにチャンスを与え、リスベットはそれに対し十分すぎるほど能力を発揮し、社長に認められる。
リスベットの能力は、パソコンを使った高度な調査能力だ。
超一流の高度なハッキング技術を駆使し、さまざまな人のデーターを調べ上げる。彼女には、人に話したくない秘密があった。


【感想】
この本が処女作といわれる著者だが、描かれる描写や設定は驚くほど手馴れているように感じる。すべてにおいてこの世界は細かく作り上げられている。
異常でグロテスクな連続女性強姦殺害事件では、あまりの遠慮のない描写に、読んでるだけで気分が悪くなった。この本の裏テーマなのだろう、「女性を憎む男たち」の言動は恐ろしいくらいに冷徹で、残虐だ。グロテスクで暴力的な過激描写が嫌いな人は、読まないほうが賢明だ。
この本を読むと気づく、ヨーロッパの女性蔑視の歴史。
本屋で見れば分かると思うが、この本のボリュームはかなり多い。
初めはただ淡々と文章を目で追っていても、ハリエット事件の頃になれば、夢中になってページをめくるようになるだろう。
翻訳された海外ものが苦手な私が、これだけ夢中になって読めたのは、このストーリーと論理的な文章描写のおかげだろう。ハッキング等のハイテク描写もかなり興味深かった。
幅広いジャンルに属するだろうこの本だが、私はやっぱり本格ミステリーとして一押しできる作品だと感じた。

ちょっと探偵してみませんか

結末の前に、読者に犯人を考えてください、と呼びかける25の短編集だ。
短編だと言って侮っちゃいけない。
岡嶋二人さんの書かれる文章はもちろんテンポよく、トリックだってちゃちなもんじゃない。
もちろん短編向きなトリックも入ってたけど、文章力のある二人なら長編だっていけるようなトリックだって入ってる。
一つ一つが本当にしっかりと完結して、しかも内容が濃いので
通勤時間に読むのに最適な作品。
とにかく、レベルの高い短編集だと断言できる。

ラスコーリニコフの供述
・誰が風を見たでしょう
・三年目の幽霊
・曇りのち雨
・Behind the Closed Door
・ご注文は、おきまりですか
・ボトル・キープ
・マリーへの届け物
・水の上のロト
・死後、必着のこと
・煙の出てきた日
・高窓の雪
・断崖の松
・組長たちの休日
・最後の講演
・愛をもってなせ
・明かりをつけて
・ルームランプは消さないで
・机の中には何がある?
・穏やかな一族
・酔って候
・シェラザードのひとりごと
聖バレンタインデーの殺人
・奇なる故にこれをのこす
・たった一発の弾丸




チョコレートコスモス

俳優、作家、プロデューサー、お芝居に携る人たちの話。

いろいろな人物が一つの舞台作品に向かって収束していく。

その作品とは、大御所のプロデューサーが新しい劇場の杮落としに舞台やるというのだ。
それを作り上げるメンバーを探している、という話。
一つ一つの場面の内容がとても濃い。
オーディションの時間を共有しているかのような長さだった。
プロデューサーが目をつけた人たちのそれぞれのストーリーが、最後に集まっていく感じが、さすが恩田陸と思わせる。


・「女二人が主役」の作品を依頼された作家は、受けるべきか受けざるべきかで葛藤していた。

・また、大学の演劇サークルでは突然現れた入部希望の新入生に度肝を抜かれていた。演技経験なし、なのに凄い。その凄さは才能からくる凄さなのか、それともズブの素人だからこそ感じる新鮮さなのか、まだ判断しかねていた。

・若手実力ナンバー1の女優は、自分の進む道に疑問を抱いていた。
両親も芸能界で、小さい頃から自分で選ぶことなくこの道に入っていた彼女は、才能もあり、周りからは羨望のまなざしで見られているにもかかわらず、友達が進路を悩んでいる姿を見てから、自分の中で迷いが生じていた。
この道で生きていく決心がまだついていなかった。

ストーリーの展開も私好みだった。
「ドミノ」とテイストはかなり違うが、話の組み立て方として通じるところがあると私は感じた。

クレオパトラの夢

あらすじ

寒さが嫌いな神原恵弥(かんばらめぐみ・男)は、
家族の要望により、双子の妹を連れ戻すべく北国の極寒の地へと降り立った。

恵弥は、世界を股にかける製薬会社の研究員だ。
40歳になるにもかかわらず、各国を転々とし、同世代よりもかなり多い収入を得る彼は、見目がいいにもかかわらず、ドギツイオネエ言葉をしゃべる。

「あら、ちょっと、和見(かずみ)、あんたんちってどこ?このクソ寒い中を、まさかまだまだ歩くんじゃないでしょうね?」
というわけだ。

彼がこの北国に降り立った理由は、もう一つあった。
妹・和見が婚約破棄し、別の男のもとへと走った。和見が恋に落ちた相手は、妻子持ちの大学の先生。
その先生が死んだ。
クレオパトラ」を調べ続けていたその先生の死の意味は?
寒さ嫌いの恵弥が極寒の地へきたもう一つの理由もそこにあった。

離婚を嫌がる妻、その夫、追いかけて引っ越してきた不倫相手の三角関係の真相は?


本当の関係が妻の口から話されたときは少しぞくっとした。
とにかく面白い。
まず恵弥(めぐみ・男)のオカマキャラを読んで思い出したのが、恩田陸作品「MAZE」だ。
後からアマゾンを見たらなんと「MAZE」の続編だった。
なるほどー。
随分昔に読んだから、名前は覚えてなかったけど、登場人物の1人のオカマキャラが妙に好きだったのを思い出した。恵弥だった。

規制の多い医薬品業界の夢物語。
ずっと昔から偏狭の地で秘密裏に続いてきた〇〇に関する伝説物語。
真相はちょっと怖いけど、無さそうで本当に有りそうな結末が待っている。

最初は主人公にもかかわらず、恵弥が謎の人物のようで得体が知れない描写が続く。
謎が多い。
目的が分からない。

だけど、妹の和見が失踪してからは攻守逆転。
妹の思考が読めない。
最初はむしろ和見の気持ちのほうがわかったのに、後からは和見が深い謎を抱えている。
破天荒なキャラである恵弥のほうに心情に共感しだすから不思議だ。

最後には、ああ双子なんだな、と思った。
特にストーリー的に双子にする必要性があまり感じられなかったけど、なんとなく最後にはそう思えた。(特に重要なところでもないけど)

この話は2つ以上の違う方向を向くベクトルがある。
それぞれの真相を求めて、進んでいく。
けど、それが上手いこと交わるから恩田テクニックなんだろう。

「MAZE」のテイストも嫌いじゃなかったけど、この「クレオパトラの夢」のほうが私は好きだ。
北国のある地域という狭い地域に、世界を揺るがす、専門家が密かに注目するある疑惑が…。という設定が私の好奇心を刺激するようだ。

お試しあれ!

愛を捨てたシーク

愛を捨てたシーク   テレサ・サウスウィック 岡本慶子


あらすじ

母親しか見分けがつかない双子の姉妹アディーナとアリーナ。
2分早く生まれたアディーナはバーハール国の皇太子の許婚にされ、王妃になるべく、さまざまな教育を受けて育った。
一方アリーナは、奔放に育ち、小学校の教師という好きな道を選び歩んでいた。

アリーナは突然アディーナから「好きな人ができて付き合っている」という告白を受ける。
さらに、婚約者の皇太子から今度弟の結婚式に列席して欲しいと言われて、アディーナはバーハールへ行かなくてはいけなくなる。
困っているアディーナを助けるべく、アリーナはある計画を練る。
それは・・・アリーナがアディーナに成り代わりバーハールへ行き、皇太子に嫌われ、向こうから結婚を断らせるというものだった。
アリーナは皇太子に嫌われるべくいろいろ頑張るも、皇太子の優しさに惹かれていき、皇太子もアリーナを愛するようになる。しかし、アリーナと皇太子にはそれぞれ恋愛に対するトラウマがあり、「愛なんてさほどいいものではないわ」と考えている。
しかし、姉のアディーナがバーハールへ来て、「やっぱり皇太子と結婚するわ」と言い・・・・・。どうなる!!



こんな感じです。
この本はハーレクインコミックです。
実は、今までハーレクインというのは女の人が読むエッチな本だと思っていました。
それは誤解で、ロマンティックな終わりハッピーエンドの少女マンガが、ハーレクインコミックなのかなぁと思いなおしました。

最近慣れない仕事で本を読むのが疎かになっていましたが、そんなときにiphoneのアプリで本を読めるものがあって、それでこの本に出会いました。携帯で読んでてもいいんですが、やっぱり本好きの私としては、これを本で読みたいと思い、本屋で探しに行きました。
やっぱりコミックは本で読んだほうがいいな。
膨大な量の名作があるらしいハーレクインは、私の中でまだ未知の領域で、開拓していくのが楽しみな分野になりそうです。

ダリの繭

ダリの繭


サルバドール・ダリに心酔した宝石チェーン店の社長・堂条秀一が六甲山の別荘で殺される。
トレードマークのダリの髭を剃られ、フローとカプセルの中で裸で発見された。

この事件におなじみのアリスと火村助教授のコンビが挑む。
キーワードは、秘書の鷲尾さんと、フロートカプセル、この2つかな。
美人で頭の良い鷲尾さんをめぐっての社長と社員の人間模様。
自分の地位を利用することになることが怖く、鷲尾さんに表立って口説くことも出来ない堂条社長の目に見えない葛藤が、私的にはせつなかった。恋敵に社長の特権を使って意地悪をすることもなく…その社長のいじらしさ、というか、性格が私にはとても好ましかった。
もちろん、この本を最後まで読んだ人はこの感想に違和感をもたれるかもしれない。
真相も含めて、この社長の鷲尾さんへの気持が私にはツボにはまったといえる。

昔この本を読んだ時の私の印象は、「クラインの壺」だった。
どうしてか分からないけど、そういう印象を持ってしまった。
しかし、現在再読してみるとまた全然違う印象をもった。
自分の年齢や、環境が変わると物語の感じ方まで変わるようだ。
本は素晴らしいと思う。

今私は携帯を使って、時々電子図書を読むけど、本家本元の紙媒体の本に敵うものではない。
やっぱり味があるのは本だ。

有栖川有栖作品を見直して、これから手持ちの作品を読み返したくなった。

七日間の身代金

七日間の身代金

冒頭は、誘拐の身代金要求ビデオから始まる。
資産家の鳥羽国彦(27才)とその継母の弟、武中和巳(25才)が、誘拐された。
身代金は2千万円。
鳥羽の継母である鳥羽須磨子(33才)は、その身代金受渡しのため、犯人の指示する場所へと向かう。しかし、ある島で殺されてしまう。


警官たちがその島の周りを空、道、海の3つから警備していたにもかかわらず、犯人を見つけることができなかった。
そして鳥羽須磨子の持っていった2千万円も犯人とともに見つけることができなかった。
その島は、誘拐された鳥羽国彦が所有している島で、まわりはぐるっと海に囲まれ、本島と島をつなぐのは道一本のみである。
一体どうやって犯人は逃走したのか。

この誘拐事件に、近石千秋と槻代要之助のバンドコンビが関わり、調査をする。
千秋は警察署長の娘で、要之助は千秋の友達以上、恋人未満のあいまいな関係。

この本は誘拐事件のみで終わらない。
始まりは誘拐だが、事件の全貌は変化球の嵐だ。

鳥羽家の異常な人間関係に、異様な性格の登場人物。
千秋と要之助の若くて健康的な思考回路が、この物語の支柱となっているからこそ、異常さが際立つ。

読み終わってみれば、単純な構造の事件だけど、読んでいる最中はこの物語はいったいどう収束していくのか分からないまま、さまざまな推理が飛び交う。


可能な範囲でネタばらしをすると、、、



*誘拐事件に身をかくした殺人事件。

これは、この本の真相のほんの入り口です。
真相は読んだ人だけが分かります。