ダリの繭

ダリの繭


サルバドール・ダリに心酔した宝石チェーン店の社長・堂条秀一が六甲山の別荘で殺される。
トレードマークのダリの髭を剃られ、フローとカプセルの中で裸で発見された。

この事件におなじみのアリスと火村助教授のコンビが挑む。
キーワードは、秘書の鷲尾さんと、フロートカプセル、この2つかな。
美人で頭の良い鷲尾さんをめぐっての社長と社員の人間模様。
自分の地位を利用することになることが怖く、鷲尾さんに表立って口説くことも出来ない堂条社長の目に見えない葛藤が、私的にはせつなかった。恋敵に社長の特権を使って意地悪をすることもなく…その社長のいじらしさ、というか、性格が私にはとても好ましかった。
もちろん、この本を最後まで読んだ人はこの感想に違和感をもたれるかもしれない。
真相も含めて、この社長の鷲尾さんへの気持が私にはツボにはまったといえる。

昔この本を読んだ時の私の印象は、「クラインの壺」だった。
どうしてか分からないけど、そういう印象を持ってしまった。
しかし、現在再読してみるとまた全然違う印象をもった。
自分の年齢や、環境が変わると物語の感じ方まで変わるようだ。
本は素晴らしいと思う。

今私は携帯を使って、時々電子図書を読むけど、本家本元の紙媒体の本に敵うものではない。
やっぱり味があるのは本だ。

有栖川有栖作品を見直して、これから手持ちの作品を読み返したくなった。