オルファクトグラム

オルファクトグラム  井上夢人

数年間ずっと読んでみたかった本を昨日やっと読むことができた。
この本は有名すぎて「面白い」という前評判ばかりが耳に入り、自分の中で敬遠していた作品だった。期待していたものと違う、という落胆を味わいたくなかったから。

頭部殴打による脳の損傷・変形のため、突然嗅覚が異常発達してしまった男の物語。その能力は、7歳のときに白血病で死んだ一卵性双生児の兄にもあった。男は嗅覚を視覚野で見るため、匂いはさまざまな視覚情報で分別される。

主人公の姉が連続婦女殺人事件の被害者となり、裸でベットに縛られ血を抜かれ殺された。自主制作のCDを見せに家にきた彼はその現場に居合わせてしまった。後ろに隠れていた犯人により、頭部を4回殴打され、1ヶ月も病院で意識を失ったままに。奇跡的に目覚めた彼が病室で自分の目の異常に気づく。それは嗅覚が目によって見えるという異常。そこから、さらにバンド仲間が行方不明になり、仲間で捜索にあたる。

嗅覚を茄子色の金平糖のような粒子、という風に見る。さらに匂いは美しいと言う。そこもまた良い。この世界観をきれいに感じることができるのは、この美しく表現される匂いの粒子にある。やっぱり醜いよりは綺麗な世界の方が好きだ。
そして、彼と仲間が独自に作り出すアイテムがまた面白い。

一つ間違えれば大雑把に作られたSFになりかねない作品が、説得力のある作品になっているところが本当に面白い。

この長編は、年齢的に夜更かしが辛く、読書の続きよりも眠気が勝ち始めた年頃の私が、眠気と戦いながら読み続けられた程、先が気になって気になって止まらない。

読んで悔いなし。
私にとって、期待したままで読んでも満足できる作品って本当に珍しいんだ。
自分の中で井上夢人ブームが巻き起こりそう。