ラ・ロンド 恋愛小説

ラ・ロンド 恋愛小説  服部まゆみ

この本は3つの物語から成る。


父のお気に入り
猫の宇宙
夜の歩み


この3つの物語は繋がっている。
はじめは短編集かと思ったが、「夜の歩み」を読んで繋がっていることが分かった。人生だってそんなものかもしれない。変なところである人とある人が繋がっていたりするもんだ。

父のお気に入りでは、正直ぞっとした。ライトなホラー映画を見ている気持になった。K大の大学院に通う大手銀行支店長の息子と、11歳上の舞台女優のカップルの話。男が、偶然に中学の同級生と再会した。その女の子は太っていて顔も醜いが、中学生のときからうなじが綺麗で、男はうなじにだけ惹き付けられ性欲を抱いていた。最後には衝撃の事実が判明する。まさか・・・の展開。
2話目「猫の宇宙」の物語にも衝撃のまさかがある。しかし、それは3話目に判明する事実だ。
そう、「父のお気に入り」も「猫の宇宙」も「夜の歩み」へと収束していく。

読み終わった後に不思議な気持になる。
柔らかく表現豊かな文章は流麗だからこそ、少しの怖さを読者に与える。変な表現かもしれないけれど、まろやかな恐怖。

この本では、いくつかの裏キーワードを挙げることができる。
近親相姦、猫、秘密。
3つの物語に共通して出てくる猫という存在にも統一感がでている。

この服部まゆみさんという人の物語は本当に独特だ。
古美術を見ているような気持にさせられる。

あまり作品は多くはないけれど、後世に残って欲しい作品たちばかりだ。いろんなジャンル、いろんな作風、素晴らしいものが残っていくことが私の楽しみでもある。文学は人間だけが持つ趣味だから。