使命と魂のリミット

使命と魂のリミット  東野圭吾

最近はめっきり節約のため文庫派になっていたけど、この本は文庫化されるまで我慢できなくて買った作品だ。
読んでから少し日が経っているから感想は冷静に書けそう。

まずは、いつもながら思うことで、東野さんの作品は一粒で二度美味しいということ。この物語の大きな重要点が2つある。それがきちんと交わっている。それはまるでX線とY線が交わるように。
雑に書きがちな部分も丁寧に、魅力ある筆致で書かれているからこそ読み応えがある。面白い。

肝心の内容だけれども、父の術死に疑問を持った娘が医者になり、そして当時父の手術を執刀した医師を師事し、研修医として勉強している。娘は疑っている。医師と母が親密な関係にあることを知っており、父が死んだのは医師がわざと手を抜いたのではないだろうか、と。
そんな中で、事件が起きる。
その事件のもとになったのが、現代の救急車事情が招いた悲しい事故だった。その復讐がある男性によって綿密に、彼自身も予定外の感情を抱きながら、準備され、決行される。その結果は…。
極限状態での手術。文明の利器を使わない原始的な手術。それは何が重要で何が重要じゃないかの取捨選択、機転が重要になってくる。
正直、もう少し最後を書いて欲しかった。
気になるし。
でも、この最後は…新しい力に満ち溢れた力強いセリフで終わっている。それが答えといってもいいのだろう。

正直、もともと文庫のほうが持ち運びしやすいし、場所をとらない、という点から気に入ってはいたんだけど、やっぱり単行本ってこの重みと分厚い紙質が重厚感を感じることができて改めて、自分は本が好きなんだな、ということを感じさせられる。
本の電子化が進んできているけど、私は絶対紙媒体派だな。利便性を考えると辛いけどさ。紙に書かれた本が好きなんだよね。紙をめくるその行為に、「次のページに何がかかれているのか」というわくわく感。

極端なことを言ったら、社会のさまざまなものが全て電子化されてしまったら、世界的な自然災害が起こったとき、最悪の場合、電気がなくなってしまったら、何も残らない。すべてが消えてしまう。本だから残せるものがある。

こんなことを言っている私だけど、前に金融会社に勤めているときは紙媒体中心の作業にうんざりしていた。この電子化の時代に、時代遅れだ、と。紙の無駄だ、非効率的だ、と文句ばかり。少し反省しなければいけないな。