青の炎 (感想再度)

青の炎  貴志祐介

  

 「こんなにもせつない殺人者がかつていただろうか」



という帯に惹かれて購入した本。
これが初めての貴志さんの作品だった。




主人公は少年。17歳の高校生。
彼の母と妹を守るため、彼は殺人をする。
彼の趣味はロードレーサー(自転車)。バイト代をつぎ込み買った愛車のフレームはチタン製。フロントフォークはカーボン。殺人はこのロードレーサーに乗っている気分と同じように、持久戦であり、徐々にスピードを上げていく。
進学校という設定に沿っているのか、それとも貴志さんの高校生時代を描いたのか、とにかく知識が豊富で、十代後半特有の自我が確立されていない哲学的な迷いに時々入り込む。幅広く、そして他の人の作品よりもちょっと深く入り込む知識に、好奇心がくすぐられた。
私も理系だったから話は拒否反応が出ず読むことができた。化学なんて好きじゃなかったけど、この本を読んでいたら、実用的な殺人化学を学んでいるような気にさせられた。(もちろん、同トリックを用いても必ず失敗するようにわざと描いたとあとがきでも書かれている。)少年の真っ直ぐな心が、まるで鞘のないナイフのように描かれている。

すべては母と妹をケダモノから守るため。


悲しい歯車が更なる悲しみを呼ぶことがとてもせつない。
物語の最後はまさに圧巻。
ここに50パーセント以上のこの本の価値が存在する。もちろん、それまでの緻密に、繊細に、そしてユーモアも交えたすばらしい世界があってこその最後だけれども。
私はこの最後の部分を本当に泣きながら読んだ。
主人公がロードレーサーのスピードを加速していくと同様に私の読むスピードも速くなっていった。そして最後。
涙で息が切れたように放心状態。
ちょっと大人になって、高校生のころのことなんか忘れていた私の心が高校生に戻って、ただただせつなかった。
冒頭に書いた帯だけど、あれは嘘じゃない。
本当にそう思った。
映画は主役に二宮さんで、妹役に松浦あやさんだから、いつか購入したい。