冬の旅

冬の旅    立原正秋


ネタバレ有り。


主人公行助の、静かな理論的な言葉に隠れている心の起伏が、わたしにはとても痛かった。彼の強い意志と家族の和解のための謀と輝くばかりの賢さに、とても好感がもてた。
反面、この話を偶然のものではなく必然のもの、文中の言葉を引用するなら「天命」というものなのだろうか、読者にも先が見えるようになっている。。厚子さんへの愛情を彼が匂わしたとき、わたしには安の死を予感させた。それは、行助の性格やこの物語の性質上、天命であるように 感じたからだ。
そうして安は死んだ。
行助の死も予感させられるものとなっている。
少年院という外界とは隔てられた環境のなかで、彼は賢すぎたため、優しすぎたため(家族の和解や母やみんなの幸せを守ろうとしたため)、そして自分ひとりで問題に立ち向かう強さのため、彼は独房のような医務室で亡くなった。
それはやはり天命だった。
話はそれるが、わたしを感心させた彼の賢さや強さは最後の最後まで続いた。
自分の中で自分の死とその理由を熱に浮かされた頭でそれだけ明確に考え、話ができるすごさ。
最後の彼のみた、みんなのホログラムのような像は彼の中の本心を表している。理一と修一郎は所詮彼にとって他人であること、亡き父のみが彼の父であること。母を尊敬していたのに、今では泣き暮らすような凡人に変わっていること。厚子の泣き顔。
最後まで、彼が対等に思っていたのは、安だけだったのだろうと思う。安に与えられたこの世の小さな光が、彼の心の中でこの世のために働きたいという心の芽を育てた。
ただ、彼はいつも人よりも一段、二段高い位置から物事を見て把握している感は否めなかった。そこがこの話のいいところであり、この悲しみの元となっている。

不朽の名作とはまさにこの作品。