卒業−雪月花殺人ゲーム−

卒業 東野圭吾

この作品は悲しい物語。
高校からの仲良しグループの中の2人も死んでしまう上に、純粋な友情や愛情が、恨み憎しみ、利己的な傲慢さに溺れ変化してしまう。そしてそれらが生む悲しい結末。一緒に笑っていた仲間がそれぞれ一人一人ばらばらになり、最終的には孤独とともに散り散りに分かれていくことを決断する。それは、大人になることと似ているようで少し違うようにも思うけど、そんな名前をつけることができない成長過程にある若者たちの曖昧な時期をうまく描いている作品だ。


この作品の魅力は、まず最初の1行。
「君が好きだ。結婚して欲しいと思ってる」
すっかりシリーズ化してしまったあの加賀刑事が発した言葉かと思うほど情熱的で直接的な表現のセリフ。まあ若さが言わせたセリフじゃないと説明している文章があるからよけいに加賀刑事の好感度が上がる。こんなセリフ普通女の子が言われたら、グラっとくるんじゃないかな。このセリフに続く会話や文章は、自然にすーっと読者の心を掴む巧みさがあり、私は話に引き込まれて行った。

トリックもそうだけど、内容、構想にしても本当に深くよく練った作品だと分かる。第一の殺人(あえて殺人と書く)の背景とその伏線と状況。第二の殺人も手が込んだトリック、そしてこの殺人の真相も奥深い。

感覚的に感想を言うと、とても広い世界観の上、深い真相、かつ多面的な視点を大切に描いた、大きい作品だと思った。普通学生ものの推理小説なんかだと、もっと小さくて単一的世界観の作品が多いのに、これは広い。学校(大学)と馴染みの喫茶店(溜まり場)と白鷺荘という限られた空間がメインなのにもかかわらず、テニス、茶道、剣道、化学、就職、そして卒業といったどれも重要な材料によって本当に広い世界観を構築している。